管弦楽曲・室内楽曲・器楽曲

管弦楽曲と交響曲

ヴィラ=ロボスは25の管弦楽曲、12の交響曲、2つの小交響曲を書いているが、この中で出版されているのは12の管弦楽曲、6曲の交響曲、2曲の小交響曲である。なお、またこの中で演奏される機会のある作品は限られており、録音されてレコード、CDになっているものは更に少なくて10曲位しか見当たらない。

すでに≪ブラジル風バッハ≫、≪ショーロス≫の項で、特に連作≪ショーロス≫の中の管弦楽作品はごく一部の作品を除いては殆どが全体として構成力や楽器法に欠陥が見られ、まとまりのない散漫な印象しか残らないために再演されることが殆どなく、楽譜も失われてしまったものがあることを述べたが、彼の管弦楽曲、交響曲について同じことがいえる。
彼の室内楽、独奏、独唱、歌曲などの分野にはまとまりと集中力のある優れた作品が数多く残されているのは広く知られていることだが、規模の大きな管弦楽曲のようなものになると、なぜかまとまりや集中力に欠ける作品が多いのはどうも彼の特徴的な一面であるようだ。バイタリティと行動力に溢れた彼の創作意欲は、感性の触発されるままに構想を広げ、書き進む内に収集がつかなくなったのではないかと思われる。それはまさに茫洋としたブラジルの大地そのものである。
だが、泉のように溢れ出る音楽的情感の豊かさは、彼の作品の大きな魅力でもあり、たまたま程よく構想と構成のバランスの取れた作品が今も残っているのであろう。


交響詩、バレー曲

交響詩 ≪クレオニコスの遭難≫(仮訳)NAUFRÁGIO DE KLEÔNICOS(1916)3管
曲の中身、由来については不明だが、この交響詩の一部分から抜粋された≪黒鳥の歌≫は、歌曲として、またチェロとピアノの曲として良く知られている。
[時間12分 出版ME]

交響詩 ≪ミレミス≫MYREMIS(1916)3管
父ラウルの記述によるアマゾンの伝説をもとにして書かれたらしいが、これは後に翌年書かれたバレエ曲の≪アマゾナス≫の基になっている。[未出版]

交響詩 ≪物憂げな夜明け≫(仮訳)TÉDIO DE ALVORADA(1916)3管
これもこの翌年作曲された≪ウィラープルー≫のもとになった曲で、習作的な作品である。[未出版]

前記3つの作品はヴィラ=ロボスが29才の時に作曲した最初のオーケストラ作品で、翌々年の1918年5月に3曲共に彼自身の指揮でリオ・デ・ジャネイロ市立歌劇場で初演されている。だが、彼としては満足できるものではなかったのであろう、後に題名を変えてそれぞれ作り直している。この他に1曲書かれたものがある。

 

交響詩 ≪黄金のケンタウロ≫CENTARURO DE OURO(1916)
これは総譜も紛失し、R.P.ギマランエスの台本によると言うことだけで、他は詳細不明。ケンタウロはブラジルのインディオに伝わる神話である。なお、上記4曲が書かれた翌年には彼の最も代表的な2つの作品が作曲された。いずれも演奏される機会も多く、CDも手に入れることが出来る。

交響詩(バレエ曲)≪アマゾナス≫ AMAZONAS(1917)3管
前年アマゾンの伝記をもとに作曲された交響詩≪ミレミス≫がこの曲の母体になっている。アマゾーナは男勝りの魅惑的な女性と言う意味があるが、伝説に現れる美しいインディオの娘にまつわる広大なアマゾンの森林や川を背景に展開される幻想的な情景が10数分の作品の中に見事に表されていて、アマゾンに代表されるブラジル的なイメージを高めている。そのオーケストレーションにはかなりの大胆さと同時に緻密な楽器の扱いによって、それまでの彼の作品には見られなかった効果的な表現が発揮されており、そこには作曲技法に飛躍的な発展がある。1917年と言えば、彼が丁度リオでフランスの作曲家D.ミヨーに出会い、ヨーロッパの新しい作曲家達の情報を直接彼から得た年でもあり、それがこの曲のオーケストレーションの手法にかなり具体的に現れているのではないだろうか。

作曲されて12年後の1929年パリのポーレコンサートシリーズに於いて初演され、当時としては超現代的な音響の中に表現されたエキゾチックで幽玄な雰囲気に音楽家たちの注目が集まり、さまざまな評価を受けた。おそらく作曲から初演に至る12年間に受けた多くの作曲技法についての他からの刺激が、繰り返しこの作品に手を加える結果になったことは容易に想像がつく話である。彼自身の編曲になるピアノ編曲もあるが、原曲の豊かな色彩感はない。[時間14分 出版ME]

交響詩(バレエ曲)≪ウィラプルー≫UIRAPURU(1917)3管
ヴィラ=ロボスの作品の中でも最も注目される作品の一つといってよい。題名の≪ウィラプルー≫はアマゾンのインディオたちに語り継がれてきた神話に出てくる魔法の鳥のことを指し、インディオにとっては愛をもたらす信仰の対象として崇められていた。この神話については、ヴィラ=ロボスは父の本棚にあった1876年C.マガリャエス著の「未開の地」の中に書かれていたインディオの伝説から触発されて作曲に至ったといわれているが、音楽の物語はその魔法の鳥をインディオの男達がアマゾンの森深く探索にいくところから始まる。さらに19世紀半ばにアマゾンの支流トンベス川の探検記を書いたイギリス植物学者は「ウィラプルー」の鳴き声と称するメロディを著作に残しているが、ヴィラ=ロボスはそのメロディをこの曲に借用しているのも興味深い。
作曲の手法的な面で言うならば前記≪アマゾナス≫よりは保守的な感じがあるが、かつて彼が採集してきた奥地のインディオ達のメロディ、リズムが使われて原始的なイメージが彷彿と感じられる。一説にはこの曲にはストラヴィンスキーの≪火の鳥≫からの影響が強く感じられるといわれるが、1913年ごろからブラジル音楽界ではロシア・バレエが盛んに上演され、多くの音楽家達がその影響を受けた時期でもあり、ヴィラ=ロボスが≪火の鳥≫に触発されたことは否めないことだろう。しかしそれにしてもこの作品が彼のオリジナリティを失っているとは思われない。彼の初期の管弦楽作品であるにも関わらず、充実した構成とアイディアに富んだ楽器法は、この作品の魅力を十分に保っているといってよい。[時間12分 出版ME]

この他に1917年から18年にかけては、交響詩として書かれた作品がさらに4曲ある。ただ、これらの作品についてはどれも総譜が紛失しており、出版もされていない。記録が残されているだけで内容の詳細は不明、2つの大曲の陰で忘れ去られてしまったのだろうか。それにしてもヴィラ=ロボスの創作意欲の旺盛さが想像され敬服させられる。次にその曲名を挙げておこう。

 

○交響詩 ≪サシ・ペレレ≫ SACI-PERERE (1917)
ブラジルの民話に一本足で赤い頭巾をかぶりパイプをくわえた黒人の少年の話があるが、その主役を「サシ・ペレレ」という。

○交響詩 ≪イアラ(水の精)≫IARA(1917)
この曲はレコードだけが記念館に残されている。

○交響詩 ≪狼男≫LOBISOMEN(1917)

○交響詩 ≪ファンタスマ≫FANTASMA(1918)

こうして1916年から18年の3年間に10曲の交響詩を書いた後、しばらくこの分野の作品は書かれていない。おそらく≪ショーロス≫、≪ブラジル風バッハ≫の連作に創作の多くをかけていたからだろう。ただ、パリ滞在中の最後の年に次の2曲のバレエ曲を書いているが、ともに総譜も紛失してしまっている。

バレエ曲 ≪ベイクーロ≫BEICULO(1929)

バレエ曲 ≪ポッセサン≫POSSESSÃO(1929)
悪魔に取り付かれるという意味のこの曲は、ノルウエーのオスロの舞踊家アドルフ・ボルムの委託で書いたもののようだ。

 

こののち、パリから帰国した30年以降56年までの間には11曲の交響詩、バレエ曲が作曲されている。これについては改めて整理することとしたい。

[註] 出版社
AMP / Associated Music Publishers
ME / Max-Eschig

 

 

ヴィラ=ロボスの室内楽(弦楽)作品について
MÚSICA DE CÂMARA(CORDAS)

ヴィラ=ロボスは弦楽室内楽作品を37曲残しているが、ここではその中から現在出版されている32曲を紹介した。この中で、まず注目されるのは17曲の≪弦楽四重奏曲≫で、28才からの2年間に初めの4曲が書かれ、残りの13曲は44才からの晩年にかけて書かれたものである。初期の4曲の中では1、3番が、後期の13曲の中からは5、6番、11、12番、15,16,17番の7曲が良く知られている。この他、今回のコンサートの曲目に加えることのできなかった作品の中では、比較的初期の頃の20代の後半に書いたチェロとピアノのための≪小さなソナタ≫≪チェロソナタ2番≫や、≪バイオリンソナタ≫の1、2、3番、それに≪ピアノトリオ2番≫、後期の作品である≪弦楽トリオ≫などが有名である。

彼は、多くの作品の中で民族的な素材を活用した彼独自の手法を試み、自由奔放な作風で数多くの作品を書いているが、この一連の弦楽室内楽作品ではむしろ伝統的なオーソドックスなスタイルを守りながら、個性豊かな内容の作品を書いているのが特徴的である。

 


管楽器(木管楽器)のための作品について

ヴィラ=ロボスの室内楽の作品は、全曲で50曲近く書かれているが、その中で木管楽器のみで編成されているものはここに挙げた13曲である。この他に弦楽器と管楽器とを組み合わせたものが2曲あるから、合計15曲が木管楽器の室内楽曲として残されている。その殆どがフランスのMAX ESCHIG社から出版されており、いつでも入手できる。

彼の室内楽作品は作品全体からみて比較的佳作が多く、ヨーロッパやアメリカではしばしば演奏されている。特に2曲以外は30代から40代にかけてのパリ時代を中心に書かれたもので、内容も意欲的であり、技術的にもかなり高度なものが多いのも特徴的である。

 


ヴィラ=ロボスの声楽(独唱曲)の作品について
MÚSICA VOCAL

ヴィラ=ロボスの歌曲は宗教曲なども加えると200曲以上もあると言われているが、ここではその中でも代表的なものを選んで24の作品を掲げた。この中でもっとも良く知られているのは、1923年から43年にかけて作曲された14曲からなる≪SERESTAS≫<セレナーデ集>である。

次に1919年から35年にかけて書かれた≪CANÇÕES TÍPICAS BRASILEIRAS≫<純ブラジル風歌曲集>も13曲からなる曲集で特徴的な内容をもっている。また、≪MODINHAS E CANÇÕES≫<モジーニャと歌>の第1集、第2集。≪MINIATURAS≫<ミニアチュア>。≪CANÇÃO DO AMOR≫<愛の歌>≪CANÇÕES INDÍGENAS≫<インディオの歌> ≪EU TE AMO」<われ汝を愛す>≪MELODIA SENTIMENTAL」<感傷的なメロディ>なども良く歌われている。

この他≪SUÍTE PARA CANTO E VIOLINO≫<歌とヴァイオリンのための組曲>や、歌とフルート、クラリネット、チェロの組み合わせの≪POÈME DE L’ENFANT DE SA MÈRE≫<母と子の詩>なども Villa-Lobosらしい特徴的な作品として面白い。

彼は他の作品の分野でもそうしたように、土着のもの、民俗的なものを基に多くの歌曲を書いている。これに彼独特の人間的な豊かな情感と生来の自由奔放な作風が加わって、単に素朴な美しさのみではない奥行きの深いスケールの大きな歌を数多く残している。日本では今までに殆んど紹介される機会をもたなかったのは、むしろ残念なことであろう。