寄稿:ヴィラ=ロボスとの出会い(協会会員:髙橋宏昌さまより)

ヴィラ=ロボス
ブラジルの作曲家。代表作に「ブラジル風バッハ」がある。
以上

ヴィラ=ロボスに興味を持つ前の私の彼に関する知識といえばこんな程度であった。代表作である「ブラジル風バッハ」も1回くらいはFMかなんかで聴いていたかもしれないが、全く印象に残っていない。だいたい、代表作である「ブラジル風バッハ」もネーミングからして、バッハの有名なオルガン曲やカンタータをジャズやロックの奏者が自由にアレンジしているように、サンバかボサノヴァ風にアレンジしたあんまりオリジナル性のない「キワモノ」「数寄モノ」の類の音楽だろう、くらいにしか認識していなかった。

ヴィラ=ロボスという人物に関しても、南米ブラジルの作曲家らしいが、いつの時代に活躍した人なのか、どんな顔をしているのかすらもわからない。そもそもブラジルにクラシック音楽なんて存在するのか?なんて思わずつぶやいてしまうくらい、我ながらひどい無礼かつ無知の極みで、実にお恥ずかしい有様であった。

そんな私がヴィラ=ロボスに惹かれるようになったのは、銀座の山野楽器で「鉄オタクラシック オーケストラ曲編」というCDを発見した2010年頃からだったと思う。それこそ「キワモノ」だろうと思って一笑に付してしまうところだったが、このCDはオネゲルの「機関車パシフィック231」、ヨハン・シュトラウス2世のポルカ「観光列車」など、収録曲は有名無名合わせて14曲あり、その中にエイトル・ヴィラ=ロボス作曲の「カイピラの小さな列車」というタイトルの曲がなぜか気になって衝動買いしてしまったのがそもそもの始まりだった。これが「ブラジル風バッハ」の第2番第4楽章「トッカータ」なのか・・・。

「カイピラ」とはポルトガル語で「田舎の」という意味だそうだが、あのマラカスか金属製の洗濯板で奏でられる「シャカシャカ・シャカシャカ」という音で、SLが田舎をのどかに走る様子がくっきりと目に浮かび、得もいえぬ独特のゆる~い空気感に私はすっかり虜になってしまった。う~ん、形式はバッハ風、雰囲気はブラジル風、「ブラジル風バッハ」原題は「バキアーナス・ブラジレイラス」とはこういうことなのか!と妙にストンと腑に落ちたのであった。

それからというもの、他の「バキアーナス~」も全部聴き、さらには「ショーロス」というシリーズがあることを知りこれも全部聴いてみたくなり、さらに他にも・・・という具合にどんどんヴィラ=ロボスにハマっていった。

たまたま以前勤務していた会社で同じ部署にいた市村さんとこれがきっかけで10何年ぶりかでFBでつながり、「日本ヴィラ=ロボス協会」という会があることを知り会員になった。ところで、ヴィラ=ロボスに関心を持つきっかけになるのは、

① ブラジルか他の南米諸国に住んでいた。
② ギターをやっていた。
③ ピアノをやっていた。

という人が多いそうだが、私のように暇さえあれば、時刻表片手に首都圏周辺をはじめ、日本全国、たまに日本周辺諸国の鉄道を乗りに行っている「鉄チャン」とか「鉄オタ(鉄道オタクの略)」といわれる鉄道ファンで、鉄道に関係する音楽(カイピラの小さな列車)を聴いたのがきっかけで・・・という音楽的に不純な人はかなり少数派のようだ。

そのため、時刻表は読めても楽譜は読めず、電車のホイッスルくらいは吹けても普通の楽器は演奏できず、電車の走行音で台車が釣り掛け式かカルダン式かはわかるが、演奏に絶必な絶対音感はまったく無し、という体たらくでとても面映ゆい。しかし、ヴィラ=ロボスをキッカケに、セミナーや即興の演奏や多少のお酒&おしゃべりなど、硬軟取り混ぜいろいろなことを吸収し、そうやすやすと会えないブラジル大使館の方はじめ、素敵な老若男女問わぬ皆さんとの出会いを大事にして、今後もお付き合い願えれば幸いである。

2018年(平成30年)8月29日 髙橋宏昌